母が探し物をしていたら、父が使っていた引き出しの中から甥宛ての書きかけの手紙が出てきた。
父は3人いる孫のなかで、唯一男の子である甥を特別可愛がっていた。
岡山の大学に行ったきりなかなか帰省しない甥を心配して何度も手紙を書いているのは知っていたのだが
甥は「読んだよ」「届いたよ」という電話をする程度で1度も返事を書いたことはなかったらしい。
自動車会社で技術系一筋だった父らしく
便箋の代わりに図面を作るときに使用するトレーシングペーパーを愛用していた。
祖父を失ってしょんぼりしている甥がこの書きかけの手紙の存在を知ったら、もっと悲しむだろうと
この手紙は1周忌のときまで封印しておくことになった。
手紙といえば、わたしも学生時代に父から何度かもらった。
大学3年になるとわたしは寮を出て下宿生活を始めたのだが
同時期、父は仕事の関係で海外赴任となり、たぶんわたしから届く手紙を楽しみにしていたのだろう。
「たまには便りぐらい出したらどうかね?」
父の文面の最後を読んでわたしも甥と同じだったんだなと苦笑いだった。
今夜は、何度も何度も父からの手紙を読み直した。
父の言葉どおり
相手の心を大切にするあたたかい思いやりを忘れない
いつまでも自慢の娘であり続けたいと思う。