Good提案賞

現在我が国では高齢化の進展や疾病構造の変化に伴い、国民の健康増進の重要性が増大しており、健康づくりや疾病予防を積極的に推進するための環境整備が要請されています。平成12年に国民健康づくり運動として「健康日本21」が開始され、さらに「健康増進法」が改定されました。その後、食事バランスガイドや運動指針など次々に対策がうちだされ平成20年度からは「生活習慣病予防のための検診・保健指導」を医療保険者が実施することになり、糖尿病など生活習慣病の有症者・予備群を25%減少させることを政策目標として掲げています。この医療費適正化計画が施行されると、企業においても社員に対して積極的な保健指導が必須となることが予測されます。

わたしは、管理栄養士として仕事を始めた20数年前から何度となくクライアントに対してヘルシーメニューの提案を行い実施したことがあります。提供当初は食の細い女性や健康に気をつけている人には好評でしたが、だんだん販売数が落ちていきヘルシーメニューそのものが頓挫してしまった経験があります。現在担当する営業所でも最近高脂血症気味の社員割合が増加したために、保健室より健康メニューの導入の打診があったばかりです。しかしほとんどの喫食者は安価でボリューム感のある食事を望んでいて、社員食堂にヘルシー感など期待していないように感じます。ヘルシーメニューを展開しても、喫食してほしい肝心の生活習慣病予備群の人に限って選択しない現状を見ると、たとえクライアントからの依頼であっても健康メニューの実現継続は難しいと考えてしまいます。ここ数年、国民の健康に対する意識もかなり向上してきていることは確かです。身体にいい、ダイエット効果がある、というようなメディアの情報に踊らされ、紹介された商品が店頭から姿を消す現象を見るにつけ、ますます「栄養士」の在り方が問われる時期になっているように感じます。科学的根拠に基づいたデータがなくては正しい情報とはいえません。栄養士が関与する以上、正しい情報を伝えたうえに結果が出ない、改善されない指導では何の意味も持たないのです。
WSV会議に参加した際、南清貴氏の話を聞くチャンスがありました。「コントラクトフードサービスとは『食のプロ』であるはずなのに、『最近外食が続いていたから体調が悪い』と言われるのはおかしい」ということばに、わたしは強い衝撃を受けました。さらに部長の「社内には600人以上の栄養士がいる。ただの『おねえちゃんの集まり』であってはならない。世の中には栄養士でなくても栄養学に詳しい人が多くなり、情報はどんどん新しくなっていくのに肝心の栄養士は難しい言葉を並び立てるだけで栄養指導が理解されにくい。社長もこれからは栄養士が活躍する時代だとおっしゃっている。もっと情報に敏感になり勉強していかなくてはならない。」という辛辣な意見にさらに追い討ちをかけられたように感じました。

では、現状のわたしたち栄養士の役割とはどんなものなのでしょうか?この業種では栄養士はなくてはならない存在であるはずなのに、同じ有国家資格者でありながら医師や看護士などと比較してもその社会的地位や職場内の権限は低く、労働条件や賃金の面でも恵まれているとはいえません。
わたしはその原因は第1に栄養士自身の資質にあると感じています。自分の仕事に責任もプライドも持たず、スキルアップを図ろうともせず、雑務に追われているうちに数年で辞めていくような腰掛け程度の感覚でしかない者に対して会社側が正当な評価を下せるはずもありません。過去のわたしもそうでした。しかし、育児が一段落後再就職をしてみて改めて日常生活の経験、たとえば出産も育児も家庭での食事のしたくも友人と出かけるレストランでも、全ての経験がスキルアップにつながることに気づき、今までの自分の経験、知識、技術を「食」に生かせることが栄養士の最大の武器になることを知ったのです。
若くても有能な栄養士は多く存在します。しかし、志半ばにして退職していく人も多いようです。調理師とパートさんの間に入って苦労している、早朝から深夜まで働き休みもない、残業もつかない、など、栄養士会に入っているといろいろな話を聞くことができます。「うちの会社は待遇いいよ」と胸を張って言う人はほとんどいません。栄養士の仕事はどこの会社に行っても同じだと苦笑いしている場面に出くわすたびに、本当にそうなのだろうか?もっと自らが努力して勝ち取る改善策はないのだろうかと考えます。

第2の原因は、栄養士業務におけるハード面の不備です。現状ではだいたい1人の栄養士がいくつもの営業所を担当している場合が多いと思います。献立はGAMESの開発により献立作成時間はだいぶ短縮できていますが、いまだに独自の献立表を使用し手計算で栄養価を算出し発注を行っている営業所も少なくありません。全ての営業所にGAMESが普及し、営業所独自の献立も栄養価から原価計算まで自動計算されるようなシステムの確立を希望します。また、毎年保健所へ給食管理報告書を提出することになっていますが、この作業もGAMESとリンクできたら、栄養士業務はかなり簡素化されると思います。

第3の原因は、資格を生かせない環境です。就職活動をする学生には、病院や保健所などの栄養指導ができる職場へ人気が集中し、委託施設よりも直営施設を好む風潮があります。最近、「健康プログラム」の導入に向けてのトライアルが実施されました。モニターが送ってくる資料をもとに栄養計算を行い短いコメントをモニターへ返すシステムになっていました。わたしもこの会社に入社してから初めて栄養指導するチャンスをいただけました。栄養指導の基本は、まずモニターにわかりやすく指導をすることです。難しい専門用語を使っても栄養士側の自己満足でしかありません。医師から受けた説明を誰もが真摯に受け止めるのは専門家であると思うからこそで、その言葉には重みがあるのです。同様に、栄養士は「食のプランナー」として信頼されなくてはなりません。「朝食にヨーグルトなどの乳製品をくわえると、カルシウムを補うことができ、よりバランスのいい食事になりますね」というわたしのコメントに、モニターは翌日からヨーグルトや牛乳などを積極的に取り入れてくれるようになりました。アドバイスにすばやく反応してくれることはうれしいことです。しかし、もしそのアドバイスが間違ったものだとしたら・・・と考えると、改めて責任の重さを痛感します。
幸い、我が社では栄養士対象の講習会が多く、さまざまな情報をタイムリーに受けることができます。しかしその情報を反映させるだけの活躍の場が少ないようにも思います。日産自動車で行われている個別栄養指導のように、どこの支社でもクライアントから依頼を受けられるようになったらいいと思います。「安全で温かくておいしい食事」は、もはや当たり前のサービスだといえるでしょう。給食管理からみても、喫食者の健康状態を把握しそれぞれの現場にそった献立作成が重要となります。それこそが現場を知るわたしたち栄養士の最大の見せ場だと思うのです。カフェテリア方式の配膳は、お客様の嗜好に合わせて自由に選んでいただけることができますが、逆に摂取食材が偏る原因にもなります。たとえば「栄養士のおすすめバランスランチ」や「生活習慣病予防アラカルト食」のような、毎日の提供食とリンクする方法を栄養士が自由に提案できるような環境であってほしいと思います。健康維持増進が図れる食事の提供は、新たなビジネスチャンスにつながるのではないでしょうか。

わたしにとっての70周年に向けての挑戦は、「栄養士として働きたい企業NO.1を目指すこと」です。毎年約2万人の栄養士が誕生するのに実際就職するのはその半数以下です。そしてその中の4割強が工場・事業所の産業給食施設に関与しています。アウトソーシングが進む厳しい現状の中で我が国の多くの国民の栄養と健康を担っているのは、実は一番栄養士人口の高いコントラクトフードサービスに在籍するわたしたちなのです。委託施設では栄養指導ができないという意識を変えていかなくてはなりません。現在ウェルネスIT研究所で開発している「健康プログラム」はクライアントだけでなく、新規採用する栄養士にも魅力的なものになることは間違いありません。誰もが参加でき意見交換を積極的に行うことで、このプロジェクトが早期に実現できることを期待しています。来春の医療改革における保健指導の義務化は、栄養士にとって大きなチャンスとなります。このチャンスを確実に業務に生かし、栄養士が栄養学の最前線で真の「健康指導」を行っていることを広くアピールしていくことで、コントラクトフードサービスこそが「食のプロ」であることを証明できるのではないかと思います。そしてその中心に栄養士が在り続けることが、この挑戦への第一歩となることでしょう。

 

狙っていたのは、最優秀賞の60万円だったのに。

もらったのは図書カード1万円分。

なんだかなぁ・・・

2007年6月8日